会長挨拶

ご挨拶

 九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門 東野 伸一郎

いつのことだったか,航空工学教室の図書室に残されていたという古い白黒の 16mmフィルムをビデオテープにコピーしたものを見る機会がありました.そ れに写っていたものは,戦前の九州帝国大学・滑空研究所における活動の記録で あり,手作りで実機のグライダーを製作している様子や,グライダーの胴体や主 翼を数人が担いで急な山の斜面を登り,組み立てた後に斜面から射出し飛行させ ている様子,また古めかしいトラックの荷台にグライダーの胴体や主翼をのせ て,荷台に乗った人が邪魔になる街路樹を払いのけながらゆっくりと運搬してい る様子など,戦前の九州帝国大学航空会では,こんなすごいことをしていたの か,と思わずにはいられない,全く驚くべきものでした.そのフィルムの中に は,2005年夏に伊都地区に移転した工学部のキャンパスから毎日見える可也 山も写っており,戦前には現在の元岡地区に元岡飛行場なるものがあったことも その後知るに至りました.

今思えば,故佐藤博名誉教授の資料を故木村春夫名 誉教授が整理された折に8mmフィルムからビデオに編集されたテープだと思わ れますが,音声こそ入っていないものの,故佐藤博名誉教授をはじめ,関係者や 当時の学生のグライダーに対する熱意がひしひしと伝わってくるものでした.九 州大学工学部キャンパスが箱崎から伊都へと移転してしまった今,何もしなけれ ば,このような貴重な資料も時のながれとともに知る人も少なくなり, またさ まざまな情報も失われてしまうのではないかとの思いを禁じえませんでした.

  そんな折,故佐藤博名誉教授の右腕として,戦前のグライダー界の発展に尽く された故河辺様ご遺族が,戦前のグライダーに関するさまざまな情報を保存し, 後世に伝える活動を始められ,日本滑空史保存協会を設立しようと尽力されてい ることを知りました.私は,若輩ながら,2006年に九州大学大学院教授から 国土交通省鉄道・航空事故調査委員会委員長へ就任された後藤昇弘教授より九州 大学航空部の部長を拝命し,またそれにともなって滑空史保存協会の会長をお引 き受けすることにいたしました.無人実験機(UAV)に関する研究を生業とし, 米国留学中に陸上単発レシプロエンジン機のライセンスも取得するなど,公私と もに飛行機を愛してやまないところではありますが,身に余る重責と思いつつ, 過去の人々の情熱を伝えると共に,未来に繋がる活動となるよう,微力ながら応 援させていただければと考え,引き受けさせていただきました.航空宇宙工学 コースの学生として入学してくる学生の中には,全く実物の世界を知らない学生 も多数おり,その数は年々増える傾向にあるように感じます. そのため,机上 の話ばかりでなく,模型ながらエンジンもついた飛行機を実際に飛行させること を通じて,データ取得や自律飛行などの研究を行わせることを実践してきまし た.教科書にはのっていない,泥臭い仕事の方が多いのですが,努力の成果が 実って,無事飛行したときの学生諸君のうれしそうな顔は,なにものにも代えが たいものであり,あのビデオに写っていた学生諸君も同じ感動を覚えていたので はないかと思います.多数の皆様のご協力を得て,この会が大きく発展すること を願ってご挨拶にかえさせていただきます.